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予備知識LV:1で映画版「昼顔」を見たらすごかった件

映画版「昼顔」感想と考察

以下、結末に関する重大なネタバレを含みますので、まだご覧になっていない方はご注意願います。先日テレビ放送された作品の感想です。ノーカットだったので、映画カテゴリに入れました。

 

 本当に予備知識ほぼゼロで見ました

ドラマを放送していた事はうっすら知っています、確か上戸彩さんと斉藤工さんでしたよね? というふわっとした予備知識のみで見ています。その辺も大丈夫という方はどうぞ。ちなみに映画に関する知識はペラペラド素人で、こちらもほぼゼロに近いです。

「昼顔妻」という言葉が流行になったのは、もう何年も前の事。「不倫は文化」という名言も今の芸能界では通用しないようで、裏切り行為とも呼べる不倫という行為は、批判・炎上の対象になり得るように。遠目の第三者から言わせてもらうと、スキャンダルはその芸能人の本質をさらけ出すよね~。

もちろん、ドラマ版「昼顔」がブームになっていたのは知っていました。本放送だけではなく、再放送のタイミングをも逃してしまい、ドラマ版は一度も見た事がありません。フジテレビさんの番組等で、予告・その他の知識だけは一人前です。そんなペラペラな私でも、映画版「昼顔」は充分に楽しめたので、少々語りたいと思います。大きなネタバレがありますので、まだご覧になっていない方はご注意下さい。結末には配慮していますが、内容にはかなりきわどい触れ方をしています(まさに昼顔的な・笑)。

フランス映画「昼顔」と上戸彩さんへのリスペクト作品

カトリーヌ・ドヌーヴ主演のフランス映画「昼顔」から着想を得て制作された、日本のドラマ版「昼顔」。その続編が映画版「昼顔」です。ドラマ版では叶うことのなかった紗和と北野先生の想い。それが淡々と綴られています。

第一に注目したいのがキャスト。主演女優・上戸彩さんは、映画「あずみ」やドラマ「エースを狙え」の頃が懐かしく思える程。ぐんぐんと演技力を上げ、今ではすっかり大女優の仲間入りを果たしました。何気ない表情の演技が魅力的で声も印象的な彼女は、声優としての仕事や歌もこなす、マルチな女優さんです。実はこっそり歌手活動再開待ちのファンだったりします。

芸能人のファンも多い事で知られている彼女は、結婚・出産を経て更にキャリアアップ。「どこにでもいる奥様」(映画ではバツイチ)という役どころの彼女。演技の端々に私生活を覗かせると思いきや、違います。覗かせるのではなく、上戸さんが「どこにでもいる奥様」を呼び寄せています。行動全てがどこにでもいる「バツイチの独身女性」。だからこそ、つい感情移入をしてしまうのでしょう。

自転車をこぐ姿、食事を作る姿、働く姿。どれをとっても、紗和そのもの。もちろん演出も巧みなのですが、やはり上戸さんの演技力も素晴らしい。自分を重ねるというより「三軒隣に住む近所の人」程度の感情移入。特別なやり取りはしていないけれど、挨拶はするし、時折「どうしているのかしら」と気になってしまうような存在感。

ですから、つい感情移入をしてしまう反面、突き放したくなる場面もしばしば。北野先生に会いに行くシーンは、画面に向かって「行かないよね、まさか行かないよね? いやいや、そんなに簡単に行っちゃ駄目でしょ」と呟いてしまう程、安易。でも、この安易さが愛すべき所でもあります。散々悩んで悩んで眠れなくなって、でも次の日にはばっちりメイクをしてしまう。会いに行く気満々やん、と思いきや、化粧を落としてほぼすっぴんに。あれ、行かないの? と見ている人を誘導しつつ、結局普段通りの地味な格好で出掛けてしまう紗和。

この逡巡が、すごく好き。こうして見ている人をハラハラさせるのも、不倫を題材にしている作品の魅力の一つです。

全員がハマり役であるキャスト陣

上戸彩さんはいわずもがなですが、キャスト陣が素晴らしい。田舎の痛い程の過疎な空気やよそ者を受け付けないという拒絶感、それらを見事に演じてくれています。海や空、蛍もそのムードを盛り立てます。

何よりもまずビジュアルが美しい。紗和が北野先生に会いに行くシーンで、ホタルのオスとメスについて話している部分があるのですが、とても興味深く聞こえます。まるで自分達を揶揄しているような、人間の生態そのものを揶揄しているような。

斉藤工さんの儚くて放っておけないオーラが、ホタルそのものです。北野先生はホタルの研究をしているらしい。紗和の住む田舎より、もう少し山奥に入った甘い水の流れる川へと足を運ぶのですが、そのシーンが息を呑む程の美しさ。この二人、本当にハマり役です。

 「不倫」を主題とする既出作品との違い

今まで不倫を題材にした映画やドラマは数あれど、ここまで普通の女性をモデルにしたものは少ないのではないでしょうか。思想的に心の奥底まで相手を信じてしまっている、とか、家柄や血縁関係がネックになって絶対に結ばれないからこそ燃え上がる二人、とか、そういう崇高な部分があまり感じられないように作られている気がします。そこが好感度高かった。

場面転換するタイミングも秀逸で、常に「現実はこうだ、目を覚まして冷静になりなさい」という天の声的なナレーションが聞こえるのです。「二人が会っている間、奥さん傷付いてるよ~良いの~? 駄目だよ~不倫は駄目な事~文化じゃないよ~」って(笑)。

例えば、主人公がもっともっと一途で健気で、愛にひた走る女性だったら違う映画になっていたかもです。悲劇か、幸福な純愛物語か。再会後すぐに北野先生の元へ行って、奥さんに詰め寄るとか。一度駄目になってしまった事と奥さんを傷付けてしまうという罪悪感が、お互いを愛する気持ちを陵駕しているように見えます。ドラマ版ではW不倫だったようで、相当の苦労や葛藤があったはず。だからだ、と言えばそれまでですが、二人はお互いに物足りない部分を補っている訳でもなさそうですし。バレるかもしれないというスリルを楽しんでいる所もありそうですが、その割には周囲を警戒している様子も少ない。

バスの中でも1.5席分空けてお隣。どうやら「何故か惹かれ合ってしまう」という、ただそれだけで会っているように見えます。悪い事だとわかっているはずなのに、あまり反省している様子もない。一筆書いているようなので、再会自体アウトですよね。だから紗和が独身になっているとしても、誰とも連絡を取らず縁もゆかりもない場所で孤独に暮らしているとしても、免罪符にはならない。

ただ、ドロドロの地獄の果てまで系映画だとしたら、私は最後まで見られなかったでしょう。結末がわかる映画程、つまらないものはないから。だって、結ばれない二人のために二時間耐えるなんて、時間がもったいない。結ばれるとしたら、傷付いた奥様はどうなるの? と思いますし。その先に何かわずかな光があると知っていて見るのであればともかく。

二人の間にあるものは真実の愛か否か

白状します。実は結末をググってました。DVDを借りようかどうか悩んでいた時、先に結末を知ってしまって……それでもかなり楽しめます、映画版「昼顔」。

何が一番印象に残っているかというと、おそらく監督やスタッフさんが「普通の」という部分を強調したかったのだろうな、という所。冒頭、紗和を執拗なまでにクローズアップする事で、どれだけの孤独に苛まれているのかを突き付けて来ます。ここが一番、痛い。もしかしたら、ここで映画館を飛び出す人いるのでは? と思う位。

紗和は海近い程良い田舎のアパートで、寂しく暮らしています。きっと胸には北野先生と愛し合った日々なんてちらりとも浮かんでいない。日々、食べて行くための仕事に追われ、どうしてこんな田舎に来たの? と囁かれ、八方ふさがり。しかし、生きて行かなければならない、その辛さ。

北野先生はドラマ版では教師をしていたようです。今はどこかの大学で講師をしているらしい。一見、奥さんである乃里子とも上手くいっているように見えます。だからこそ、どうして北野先生が紗和を受け入れるのかが、すぐには理解できませんでした。

ここからは完全に私見です。全て見終わった後に辿り着いた答えが、紗和と北野先生は「お互いにウィンウィンな関係だった」という事です。女性は自分が一番になりたいという欲求を持っていますが、男性は誰かの二番目が良いという精神の持ち主。不倫という関係は、女性であれば「奥様よりも自分を大切に想ってくれている」という女性の「一番目欲求」が満たされ、男性であれば待ち続ける女性を「仕事や自分の好きな事の次(自分の中の二番目)に当てはめる」事が出来るのです。

紗和は関係がより深くなってもまだ、北野先生を「先生呼び」のまま。乃里子はここにさえ、深い嫉妬を抱きます。夫婦になってしまっては、もう距離を測る事は出来なくなる。ここに、不倫が何故「文化」と成り得たのかという事の答えがあるのではないでしょうか。

もちろん、周囲の人間を傷付けてしまう愛を応援する事は出来ません。ただ、この二人は「何故こんなにも惹かれるのかわからない」という本能的な衝動で結ばれていると言って良い。終盤、乃里子に詰め寄られた北野先生の台詞は必見です。この一言に全てが詰まっている。ただ日常生活に物足りなさを感じている二人が惹かれ合うという、単純な愛ではないという事がわかります。故に、見ている側は嫉妬を感じ、憎悪を感じ、愛情を感じる。

ラスト、消化不良な形で終わるのは仕方がない、と高をくくって見ていました。一度は結婚を決意した二人が向かう先は、天国なのかそれとも……。

最後の重要なシーンの中に、いつまでも場面転換せず、息をするのも忘れてしまいそうな描写があります。痛々しくて、悲しくて、切なくて、でも仕方のないような、残酷すぎるような、そんなシーン。このシーンだけでも、私は映画「昼顔」をおすすめします。ここにこの作品の「愛」に対する答えが描かれているのではないでしょうか。

 

最後まで読んで下さって、ありがとうございました!